2010年2月20日土曜日

アフリカが豊かになるには               ~ポール・コリアー講演~

遅くなってしまいましたが、先日参加したポールコリアーの講演についてのレポートを。


著書の中でも彼が述べているように、
BOPのうち最貧の10億人の多くはアフリカ諸国に住んでおり、
経済発展が未だに進まない理由の一つとして、「資源の罠」があげられている。

天然資源の罠とは、強い天然資源への依存が、他の経済活動を停滞させ、さらにバッド・ガバナンスとクーデターを招きうる、というもの。講演では、そのような厳しいアフリカの現実を踏まえつつ、ハイチからの学びをまじえながら、前向きなメッセージが語られた。






内容は、経済発展の促進策として、ハードの「メガシティ」と、それを支えるソフトとしての「ルール」の2つについて。


1)メガシティの有効性

メリットとしてあげられたのは、

・生産性の向上

空間的に組織を拡大するだけで、生産性が4%ー8%上がるという。ここで、なぜ一般的な大都市でなく「メガシティ」か、の理由は以下。
アフリカは現在、国際貿易の進展により垂直統合の解体が進み、垂直統合、特に空間的クラスターの形成により享受できるメリットを受け取れないでいる。なぜなら、解体が進むと、製造業であれば、製造工程の一部分に守備範囲が限定され、労働力には少ないスキル・ノウハウしか蓄積されない。ならば、産業技術の集積やスピルオーバー、といったメリットを得るために、メガシティによって、垂直統合解体から垂直統合形成をねらう、というのがコリアーのメッセージ。その他にも、メガシティは規模の経済の恩恵も大きいとのこと。

このクラスターの競争優位を印象付けるのが、世界の2/3のボタンは一箇所で作られている、またインドには2000万都市が2つ存在するが、アフリカには1000万都市すら存在しない、ということ。



2)ルールの重要性

彼のハイチへの言及は以下に整理される。

・災害前

自然災害としての地震でなく、人災としてとらえたとき、耐震基準、さらにはその裏にある倫理的基準の崩壊が根底にあり、倫理的基準というルールを変えることが必要とのこと。

・災害後

目新しくないが、復興の現場で、固定電話でなく、携帯電話などモバイルデバイスが活躍している、ということ。

社会インフラとしての電話を考えたとき、固定電話はガス・水道と同様、強いガバナンスを必要とするのに対し、アフリカをはじめ途上国で一般的なプリペイド式携帯電話は、契約を必要としない自由なビジネスモデルであり、その分ガバナンスをあまり必要としない。言い換えれば、携帯電話は組織の腐敗からもっとも遠いデバイスとのこと。ここでも、”プリペイド”というルール一つがいかに社会の利益を変えるかがみてとれる。もちろん、エチオピアのM-PESAのようなモバイルバンキングについては、その自由さと民間ならではの急速な成長の反面、消費者保護など、公の組織の力が不可欠な側面がでてくるのは事実。

このような自由度の高くかつ公益につながる”ルール”が、途上国の経済発展に欠かせないということができる。



3)実際、どうメガシティをつくるのか?

これは、質問したところ。

・コリアーの意見

アフリカでは、紛争後、選挙制度など政治システムの整備を第一にすると、結局は腐敗・汚職を招くため、順番を変えて、経済開発を第一にもってくる必要がある、ということだ。

・疑問

しかし、この講演の中で語られた、経済開発としてメガシティを目指す、ということは、都市開発に必要な行政的・政治的なパワーをメガシティをつくる以前に確保しておく必要があることを意味する。”メガ”なら尚更である。

こう考えてみると、そのようなパワーを官に確保しておく、ということは、結局政治・行政システムを優先することと同義であり、話がもとに戻ってしまう。


・コリアーの答え

この矛盾に対する解決策のうち一つは、Paul Romerの”チャーター・シティ”。

”チャーター・シティ”の特徴は、複数の国と投資家がパートナーシップを結ぶことで、国の役割を限りなく軽減し、市場経済に基づいた都市開発を行う点にある。投資家とパートナーシップを結び、権限委譲することで、彼らの長期のコミットメントを担保し、社会インフラなど都市開発への投資を市場に行わせる、というもの。このパートナーシップと権限委譲が、政治・行政システムを優先させる必要なく、経済開発を第一とすることを可能にするという。

また、なるべく人があまり住んでない土地につくるのが良く、なぜなら、”チャーター・シティ”の住民は、そこの住人になることを所与もしくは強制されるのでなく、自ら選択しなければならない。


成功例としてローマーがあげるのは、香港。香港は、事実上、”チャーター・シティ”の構造をもつモデルであり、イギリス・中国・投資家のパートナーシップの下で、それ以前の”ルール”を”自由で公益につながるルール”に変えるによって実現したという。その後中国はこの”チャーター・シティ”のモデルを経済特区などの形を使い、中国の他地域にスケールアウトしていったと彼は捉え直す。


ここで”ルール”として挙げられるのが、土地関連の制度。例えば、先進国ではごく一般的な、住民の所有権で、前者は住民が土地を登録し所有権をもつことで、担保にして金融サービスへのアクセスをえて、ビジネスを活性化させうる。一方、国も、地価の上昇から利益を得られるようにし、その利益を投資家誘致のため、さらに都市の価値を上げることにつとめる。



ーーー


こうまとめ直してみると、非常にばっくりとした解決策だ。”チャーター・シティ”のアイディア自体ができたばかりなせいもあるだろう。しかし、現在の途上国の都市問題の多くは、適切な住環境の供給・キャパ不足に起因し、背景には慢性的な政府の予算不足と行政の不機能があることを考えると、チャーター・シティの”都市開発の自由化”という方向性は正しいと思う。


また、コリアーはアフリカ開発研究の第一人者なのを考えると、誰よりも厳しい現状を知り、目をつぶりたくなったこともあるはず。それでも、前向きに問題に立ち向かう姿は、ただただ見習いたい、と思う。


自分も、どんなに目前の問題が複雑でお手上げでも、前向きに立ち向かおう、と改めて決意。


あと、コリアーさんは身内からのスピーチの評価がいつもよくないことを自虐ネタにする、とても愉快な人でした。


留学生活も100日を切ったので、悔いのないよう、ひきつづき頑張ります。

長くなりましたが、ではでは。

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